EVバッテリー向け耐火性フェノール樹脂成形材料の開発について

2024年8月1日


住友ベークライト株式会社(本社: 東京都品川区、代表取締役社長: 藤原一彦)は、EVバッテリー向けに耐火性に優れるフェノール樹脂成形材料を開発しましたのでお知らせいたします。
フェノール樹脂は、火によっても融けない耐火性と耐燃焼性に優れたプラスチックであり、熱暴走に代表されるEVバッテリーの安全性課題の解決に貢献しています。また、Fraunhofer研究機構と共同で、EVバッテリーモジュールへ熱硬化性樹脂成形材料を積極的に適用したComposite Battery Moduleプロジェクトを進行しています。本技術の開発と実証を通じて、EVバッテリー向けの技術開発を加速し、お客様にEVバッテリーのソリューションを提案してまいります。


背景

電気自動車のバッテリーは高容量化が進み、航続距離の延長や充電時間の短縮が可能になっています。しかし、それに伴って、熱暴走という安全性の課題が浮上しています。熱暴走は、バッテリー内部の温度が急上昇し、制御不能となる状態を指すもので、最悪の場合、火災や爆発を引き起こす可能性があります。バッテリーの高容量化に伴い、万一バッテリーが熱暴走した際のリスクが増しており、熱暴走の進展や連鎖を遅らせる新たな技術開発が求められています。

バッテリー部品に使用されてきた各種素材にも、熱暴走の進展リスク低減のため耐火性向上が求められるようになってきています。耐火プレート、絶縁板、圧力弁などにエンジニアリングプラスチックなどの熱可塑性樹脂がこれまで汎用されていますが、熱により融けてしまうため、耐火性能に限界があります。当社は加熱しても融けないという熱硬化性樹脂の優れた耐火性に着目し、当社がラインナップするフェノール樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ジアリルフタレート樹脂成形材料を市場に提案しています。特に耐火性に優れるフェノール樹脂成形材料ではバッテリー部品専用のPM-5800シリーズをラインナップしており、採用が広がっています。

Fraunhofer研究機構との共同プロジェクトによるComposite Battery Module

耐火性フェノール樹脂成形材料PM-5820について

さらなる安全性向上への貢献を目指し、耐火性を従来ラインナップから大幅に向上させたフェノール樹脂成形材料PM-5820を開発しました。本材料は、難燃性UL94V試験に用いられる標準バーナーよりも40倍以上火力の強いトーチバーナーによる連続的10分間の火炎接触時においても、材料の変形および灰化進行を大きく抑制できる特徴があり、熱暴走の進展や連鎖を遅らせる効果が期待できます。

トーチバーナー(2.2kW)    10分連続 火炎試験

  • サンプルサイズ    120mm x 120mm x 厚み1mm
  • 連続火炎 10分後
Cold side(裏側面) Cold side(裏側面)
Hot side(接炎側面) Hot side(接炎側面)

バッテリー部品向けフェノール樹脂成形材料

項目 PM-5800
低比重
PM-5810
高強度
PM-5820
高耐火
耐火性(連続火炎耐性) 対 UL94 Vバーナー
対 UL94 5Vバーナー
対 トーチバーナー
比重 - 1.52 1.78 1.91
曲げ強さ Mpa 125 210 190
曲げ弾性率 GPa 9 16 21
絶縁破壊強さ(S/S) MV/m 10 9 10
  • 上記のデータは参考値です。
  • 耐火性(当社社内法で試験)
    試験方法: 120mm x 120mm x 2mm厚み試験片の片面に各バーナーで連続的に5分間火炎を与えた。
    判定基準
    ◎: 炎が貫通せず、裏側の灰化も抑制されている
    ○: 炎は貫通しないが、裏側の灰化が進行している
    △: 2分程度で炎が貫通

本材料は薄肉成形性など優れた射出成形性を有しており、部品の形状に高い自由度を持っています。熱可塑性樹脂(エンジニアリングプラスチック)に代わって本材料を使用することで、優れた耐火性を有する複雑形状のプラスチック部品が実現可能となります。

また、EVバッテリー用途で耐火性を目的に使用されるFRP(連続繊維強化プラスチック)やSMC(シートモールディングコンパウンド)などのシート状プラスチック材料やマイカシートなどの無機シート状材料が抱える形状自由度の課題も解決できることから、EVバッテリー部品の省スペース化や安全性の向上に貢献することができます。

射出成形により複雑形状部品が成形可能

射出成形により複雑形状部品が成形可能

Composite Battery Moduleプロジェクトについて

既存のEVバッテリーモジュールのハウジング設計を再評価し、熱硬化性樹脂複合材料を使用した代替構造を探索・提案することを目的に、Fraunhofer研究機構と共同でComposite Battery Moduleプロジェクトを進めており、実際のバッテリーモジュール動作試験によるデータ取得を今年度末にかけて実施予定です。


今後について

EV バッテリーの課題解決に貢献する材料開発やComposite Battery Moduleプロジェクトでの実機検証を通じて技術開発を加速し、お客様に電動化のソリューションを提案していくことで、2030年に年間50億円以上の販売を目指し、さらなる事業拡大を図ってまいります。


関連情報




本件に関するお問い合わせ

住友ベークライト株式会社 マテリアルズソリューション営業本部
TEL: 03-5462-4101