2021年10月19日
住友ベークライト株式会社(本社:東京都品川区、代表取締役社長:藤原一彦)は、フェノール樹脂に含まれる残存原料であるフェノール、ホルムアルデヒドを0.1%未満まで低減し、有機溶媒を使用せずに、VOC(揮発性有機化合物)を大きく低減した完全水溶性レゾール型フェノール樹脂を開発いたしました。残存フェノール、ホルムアルデヒドに由来する各種法規制にも非該当となることで、これまで法規制によりフェノール樹脂の使用が忌避されていた分野へも熱硬化性の環境対応プラスチックとして提供いたします。
開発の背景
熱硬化性樹脂であるフェノール樹脂は、非常に高い耐熱性を示し、200℃以上の高温、長時間使用される用途では100年以上前から使用されてきました。フェノール樹脂の中でもレゾール型は、多くは溶液状で取り扱われ、各種繊維やフィラーなどの基材と高い接着性を示すため、有機繊維、金属、ガラスなどさまざまな基材のバインダーとして使用されています。しかし溶液タイプのレゾール型フェノール樹脂を使用すると、有機溶媒系では設備の防爆対策やVOCといった作業環境が問題となります。これに対し比較的環境負荷の小さい水溶液系のフェノール樹脂も使用されますが、疎水性の高いフェノール樹脂に水溶性を付与するためにモノマーであるフェノール、ホルムアルデヒドが樹脂水溶液中に多く残存してしまい、これがVOCや臭気として発生する課題がありました。
このような水溶性レゾール型フェノール樹脂の課題に対し当社では、過去に蓄積された反応条件から低モノマー化に最適な条件を計算し、これに特殊な触媒技術を組み合わせることで、各種法規制の対象外となるモノマー成分0.1%未満に低減する開発を進めてきました。さらに使用時の水での希釈も可能にするため、20倍以上の水希釈が可能であることも目標としました。
開発品について
レゾール型フェノール樹脂水溶液は、水で数倍まで希釈できるタイプ(汎用品PR-51138C)が標準的です。これを20倍以上に水希釈が可能なほど水溶性を向上するためには、一般的に低分子量化(汎用品PR-50781)もしくは高アルカリ化(汎用品PR-967)により樹脂の水溶性を向上させる方法がとられます。低分子量化の場合は前述の通りモノマーの残存が発生し、高アルカリ化により水溶性を向上させる場合は、遊離モノマーが少ない高分子量タイプが可能ですが、その場合は粘度が高くなって作業性が悪化したり、強アルカリとなって取り扱いに注意が必要になったりする問題があります。
これに対し当社では数多くの水溶性レゾール型フェノール樹脂を生産・開発しているため、このデータを活用し、アルカリ性、粘度を抑えたままで、可能な限り遊離モノマーを低減する配合比、反応条件を算出しました。これに加え水溶性を低下させずに遊離フェノール、遊離ホルムアルデヒドを低減させる新たな触媒技術を活用することで、遊離モノマーが0.1%未満、20倍以上に水希釈が可能で、粘度やアルカリ性が実使用上問題にならないようなレゾール型フェノール樹脂を、濃度違いで2品番開発しました。下記写真のように水を添加しても白濁することなく透明性を保ったまま溶解できます。活用した新規触媒は食品添加物にも使用される物質であることから安全性も高く、使用量もごくわずかであるためコストにも優れる開発品となっています。
■ 樹脂特性
低モノマー完全水溶性レゾールの特徴
開発品は有機溶剤を使用していない水溶液のため、含まれるVOCは、遊離フェノール、遊離ホルムアルデヒドのみになります。それぞれJIS A 1901小型チャンバー法で測定すると、図のように汎用品と比較して大幅にVOCが低減できていることが分かります。実際にご使用いただいたお客様からも臭気が大幅に低減し、ほとんど臭いを感じないというご評価をいただいています。 |
低VOC完全水溶性レゾールのVOC測定値 |
表のゲル化時間にもあるように、汎用品と比較して硬化性に劣ることもありません。 |
含浸紙の引張強度 |
今後の展開
国外を含めてVOC低減、環境対応のニーズが高まる中、既存の溶剤系フェノール樹脂のみならず、水溶性フェノール樹脂からも、本開発品への置き換えによる環境対応化を提案していきます。これに加え、現在はエポキシ樹脂やアクリル樹脂などが使用されている用途でも、高耐熱性や高強度など付加価値要求が高まっている自動車や航空機関連部材をはじめ、建材用コーティングや接着剤など、様々な産業分野への適用・実績化を目指し、国内外の各種産業分野への利用展開を図ります。
関連情報
本件に関するお問い合わせ
住友ベークライト株式会社 高機能プラスチック製品事業本部 アジア営業本部ポリマー営業部
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