ご紹介
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暖秋気味だった今年は、暖冬との予測もありましたが、11月に入ると一気に冷え込みがやってきました。寒さにはなんといっても鍋がいちばん。今年は甚大な災害が発生して、人々の心情も不安定な年だっただけに、鍋のもつ温かい“団欒”のイメージは何物にも代えがたいという思いがします。
その冷え込みを待っていたかのように、今年も山形・庄内から「平田赤ねぎ」が市場出荷されてきました。ここ1~2年の鍋ブームで、各地の煮て美味しいネギ“煮ネギ”が注目を浴びていますが、その中でもとりわけ市場での引き合いが強いのがこの太い一本ネギ「平田赤ねぎ」。茎の鮮やかな紅色が大きな特徴ですが、生では辛みがあるものの、鍋に入れて火を通すと、びっくりするような甘みと柔らかさに変身するネギだからです。卸売市場では、一般の白ネギの2~3倍高い相場がつきますが、それでも買い受ける小売商や仲卸業者たちからは「もっと出荷してほしい」といわれているほどのネギなのです。
鍋物には多くの野菜類を入れますが、ハクサイやキノコ類と並んでネギも所詮は脇役の食材。にもかかわらず、このネギが卸売市場ではなぜそんなに人気なのでしょう。
「平田赤ねぎ」はもともと、庄内地方の旧平田町、現酒田市の飛鳥、砂越、楢橋地区で、農家の自家用に細々と生産されてきた在来の野菜でした。なにしろ生育するまでに1年以上もかかるという栽培期間の長さ、手間がかかるため面積も増えず減少の一途、農家の自家用野菜、保存食だったのです。地元では最高に美味しい煮ネギ、伝統野菜として認知されていたのですが、作る人がいなくなればそのまま消えてなくなる運命でした。
しかし、そんな隠れた名品もようやく陽の目を見ることになります。「こんなに美味しいネギを放置しているのは、いかにももったいない。なんとか生産拡大できないものか」と生産農家を説得したのは、東京の卸売市場のセリ人だったといいます。そんな言葉に励まされて、生産農家が集まり平成15年に「平田赤ねぎ生産組合」が結成されました。それ以来、増産へ向け本格的な取り組みが始まったのです。
現在、9名の生産者が約3haの面積で33トンの赤ねぎを、関東、関西、東北地元の9市場に出荷するまでになりましたが、この数量では10月末から年内いっぱい程度の出荷しかできません。市場側からは、もっと寒くなる2月まで出荷できるよう、生産量をさらに増やしてほしいという、強い要望があるといいます。
産地側は、いかに赤ねぎの品質を落とさずに、高い評価を維持しながら拡大できるか、に最大の注意を払っています。太さ形を揃えることはもちろん、その大きな特徴である鮮やかな紅色が濃いものをA品として厳選。収穫時の色の保持や食味を落とさないために、鮮度保持フィルム(P-プラス)を早くから採用しているのも、高相場維持の秘訣です。
これらA品の規格に合格しないものは「平田赤ねぎ」が表記できないB品とし、その格外品は「甘酢漬け」や「ねぎ味噌」などの加工品としてネット販売するなど、生産維持のための手取り確保の作戦も万全です。
優良な差別化商品として、生協やスーパーなどからの直接取引きの引き合いも多いといいますが、「卸売市場で育てていただいた商品。これからも生産者と市場のパートナーシップで拡大していきたい。お陰様で部会活動は充実しており、若い生産者も増えています」と同生産部会・後藤部会長。たしかに「いくら作っても、売れますよ」などと、卸売市場のプロたちから評価される野菜は、あまりありません。生産者はそんな言葉に大きな勇気を得て、拡大に取り組んでいるのです。市場も消費者も大歓迎です。
山形県の庄内地方は、全国的にみても在来野菜類がまだ多く残り地域。有名な「だだちゃ豆」を始め、「温海(あつみ)かぶ」「民田(みんでん)なす」「鵜渡河原(うどがわら)きゅうり」「外内島(とのじま)きゅうり」「小真木(こまぎ)大根」「藤沢かぶ」など地元の人々から長く愛されてきた伝統野菜も豊富です。ところが多くの品目は、生産維持の難しさや収益の低さなどから作る人が減り、静かに消えていく運命だといいます。しかし、この「平田赤ねぎ」が良き先進事例となり、現代に復活を果たす伝統野菜が増えてくることを期待しましょう。