2010年9月のP-プラス野菜
【秘伝】

ご紹介

9月に入ると、いよいよエダマメ好き待望の品種「秘伝」の出回りの季節です。こだわりのエダマメとして知られるのは、新潟の「黒崎茶豆」、そして山形・庄内の「だだちゃ豆」。それに続くのが、山形・河北町と寒河江市を中心とした晩生種「秘伝」、待ちに待った"最後の大物"が出荷時期を迎えるのです。この「秘伝」は東北地方では各地にみられる晩生種ですが、最大の産地は約20年前から取り組みを開始したJAさがえ西村山管内。同JAのエダマメブランド「ハッピー豆」シリーズの、中心品種に位置づけられています。

8月上旬から始まる同JAのエダマメ出荷は、しんがりである9~10月の「秘伝」まで約550トン、すべてが鮮度・食味保持フィルムであるMA包装(P-プラス)されて出荷されています。いまや、エダマメの包装といえば、どの産地においてもMA包装が標準装備なのですが、同JAでの採用が早かったのには理由があります。晩生のエダマメ「秘伝」の独特の香りと、濃厚な味わいを消費者にそのまま届けたい、という産地の熱い気持ちを伝える手段でもあったのです。

そのキーワードは、同地域のエダマメの「食文化」です。JAさがえ西村山えだまめ部会では、平成5年頃から「秘伝」を作り始めましたが、最初の主な出荷先は仙台で、エダマメやクリをお供えして月見をする「豆名月」に合わせて出荷していました。ところが、生産しているエダマメ農家自身から、「これは美味しいエダマメだ」と評判が広まり、元来からあった地域内の家庭園芸でのエダマメ作りまで「秘伝」が普及拡大していったといいます。

この地域は、地下水と排水の良い土に恵まれ、豆づくりに適する環境でもあったのでしょう。エダマメは昔から、旬の時期にそのまま茹でて大量に食べるだけでなく、搗いて餡状にして利用する「ぬた」として(宮城県などでは「ずんだ」と呼ばれています)、また青豆を乾燥させて冬まで食べる習慣がありました。いまでは、エダマメの味噌や豆腐、お菓子の餡やクリームの代わりにと、さらに利用方法が拡大して、東北地域でも珍しいとさえいわれるほどの「エダマメ食文化」が育っている地域でもあります。

そんな食文化を持った地域から出荷される「秘伝」は、単純な"商品"としてではなく、地域が愛する「食」を他の地域の人にも味わってもらいたい、といういわば"おすそ分け"の精神。「秘伝」を、鮮度保持フィルムでMA包装パックした状態で消費者に届けようという生産者の気持ちには、「食文化を共有しましょう」という熱いメッセージが込められているようです。

いまや140haにも拡大したJAさがえ西村山のエダマメづくりの特徴は、土づくりに米ぬかを使用すること。秋、収穫を終えた土に米ぬかをかけ、ひと冬畑の上で発酵させると、微生物が増殖して微量養分が供給され、エダマメの甘みがさらにアップするといいます。肥料は発酵けいふんなどの有機質が主体に、この米ぬかをぼかしとして散布する方法は、同えだまめ部会の統一基準となっています。

収穫された「秘伝」は、夕方までにJAの出荷貯蔵施設に搬入されます。主要出荷先の関東へ出荷されるまで、食味が落ちないよう5℃に保たれた貯冷庫で一晩予冷されます。その美味しさと食文化を届けるための、細心の心遣いなのです。(参考資料=寒河江市webサイト)