2022/8 【CARTALK】バイオマスを活用したリグニン変性フェノール樹脂で資源のサステナブル化に貢献(後編) | 住友ベークライト株式会社

バイオマスを活用したリグニン変性フェノール樹脂で
資源のサステナブル化に貢献(後編)

新技術:バイオマスを活用したリグニン変性フェノール樹脂で資源のサステナブル化に貢献(前編)

ご紹介

リグニン変性フェノール樹脂

自動車向け高信頼材料に欠かせない熱硬化性芳香族材料であるフェノール樹脂の役割と、カーボンニュートラルや資源循環に向けた取組みについて開発に携わる研究者とお客様との窓口となる営業部門のメンバーが語ります。バイオマスを活用したリグニン変性フェノール樹脂のサステナブル化の「今」と「これから」を前後編でお届けします。
後編では、古くて新しい固形&液状リグニン変性フェノール樹脂の量産技術の現状と、この樹脂がもつポテンシャルをどう市場にお届けしていくかについてお届けします。


現代社会が求めるカーボンニュートラルや資源循環に向けた取組み

持続可能な社会の構築が求められ、環境配慮型製品・サービスの市場が拡大していますが、住友ベークライトでは、すでに30年以上も昔から、植物由来のフェノール樹脂の研究開発を進めてきました。どのような思いから、それらのバイオマス素材を自動車向け材料に適用しようと考えたのか。フェノール樹脂のグローバルサプライヤーとしての使命をどのように捉え、どのように社会貢献していこうと考えているのか。今回は開発と営業のメンバーに熱い議論を交わしてもらいました。

カーボンニュートラル

――さて、現在は評価期間中ということですがこの期間に他社参入はされないでしょうか。


HPP技術開発研究所 研究部 村井威俊

HPP技術開発研究所 研究部
村井威俊

村井 液状レゾール型リグニン変性樹脂は戦前から研究が進められており、元より国内外で開発している企業があります。ただ固形ノボラック型については製造技術が難しいとされており、当社は固形も量産技術を確立して実証しているため、相当リードしていると自負しています。恐らくですが、数年で追いつかれることはないかと思います。
もちろん慢心してはいけないのですが、自動車関連に関しては粛々と進めていけば、自ずと当社品が採用されていくと考えています。

――では、あとは何をどのように一押しすれば、量産化につながるのでしょうか。


高機能プラスチック事業本部 ポリマー営業部 吉田康司

高機能プラスチック事業本部 ポリマー営業部
吉田康司

吉田 温暖化ガスの排出量がどれだけ削減できるかというのが求められており、そこに対して“何%削減できる”というのを提示できればうまく回っていくと思います。実際、日本だけではなく海外のお客様からもそういった要望が寄せられている状況です。あとは価格戦略面からも具体的に提示する、そういったフェーズにきていると思います。
あとはアピールの仕方を考える必要があると思っています。WEB展示会や広報活動を活用するなど、対外的に発信をして、より多くの方々に知ってもらうことも必要です。

石山 いずれにせよ数年で採用というのは中々難しいので、5~10年のスパンで地道に改良を重ねながら提案を続けていければと思っています。

――開発担当者としての今後の目標、予定している取り組みなどを教えてください。

村井 自動車業界に限定するなら、高機能な材料については5~10年かけてコツコツとやっていきます。一方、自動車以外の用途に関してはもっと立ち上がりが早い可能性があるかと思います。そのため現在は評価頂けるユーザーさんには適したサンプルを提供して、どんどん評価をしてもらうよう働きかけています。
当社は世界中に供給拠点があり、樹脂だけでも欧・米・アジアに開発拠点が5つあるというのは大きなアドバンテージになります。今後はこれまで以上に各拠点と協力して開発を進められたらと考えています。私は以前、インドネシアに勤務していた経験がありまして、アジア新興国では開発から製品化までのスピードが速いことを実感しました。日本に限らず海外から開発を進められると思いますし、特に日本とアジアは情報を共有しやすい立地ですので、そこも強みとして活かしていければと思います。
現在は数トンレベルから立ち上げられる供給体制の構築を進めておりますが、バイオマス材料の新規開発で少量から供給できる形はなかなか少ないと思います。小さい案件から弾みをつけて、採用数を増やしていきたい、というのが研究側の希望ですね。
主なターゲットの市場と考える、自動車関連のブレーキやタイヤなどは基礎ベースからじっくり、工業用途や副資材は速やかに開発を進め、また世界拠点との協力を進めていければと思います。

村井
研究拠点

HPP技術開発研究所 研究部 今井淳司

HPP技術開発研究所 研究部
今井淳司

HPP技術開発研究所 研究部 浅見昌克

HPP技術開発研究所 研究部
浅見昌克

今井 リグニンはバイオマスのアイテムのひとつであり、課題としては目指すべき理想指標である「バイオマス化率100%」になります。勿論現実には難しいところがありますが、100%に近づけるという努力を続けることで可能な限り素材のオプションを広げ、我々のラインナップを増やしていきたいと思っています。よく新幹線の広告で「プラスチックのパイオニア」とうたっていて、世間的にも知られていますので、高い理想を持って業界をリードしながら新しいものを提案していくというのが我々の使命だと思っています。

浅見 総合的な環境対応の取組の一つとして、バイオマス化率を上げていくということを、研究所全体で長期的な目標に掲げています。おそらくこの先、環境対応も、バイオマスの技術レベルも、世の中全体としても上がっていくでしょうし、世の中の動きを先回りしなければ、気が付けば追い抜かれてしまう可能性もあるので、うまくキャッチアップしていく必要があると思います。本日の対談のテーマではないのですが、「熱硬化性樹脂」が世間的にはリサイクルがしにくいといわれているので、これをいかにサステナブルなものにしていくかというのも重要だと思っています。
会社の生き残りをかけて、サステナブルな製品をどんどん増やしていかなければなりません。

――開発の方々の真摯な想いでものづくりを行っていることが感じられました。では営業の皆様は、この想いを受けてどのようにお客様へ伝えていきますか?

石山 今後はリグニン以外にも、バイオマス素材がどんどん世の中に出てくると思います。お客様の状況を逐一研究部門に伝え、より良い製品にブラッシュアップしていければと思います。

吉田 これまでも環境に優しい製品はありましたが、「取り組んでいますよ」という印象付けで終わる商品も多かったような気がします。ただこのリグニンは、お客様の具体的な取り組みも見えてきますし、世の中全体が変わってきているのも実感しています。その中で、我々も量産体制から少量でも世に出せるというのは、研究と製造が一体になっているからこそのこと。我々もその強みをよりお客様へ伝えていきたいと思っています。
自動車に関係する他の部署とも協力し合いながら一体となり、バイオマス製品、環境に優しい製品をアピールできる場を拡げていければと思います。

高機能プラスチック事業本部 ポリマー営業部
石山 葉

 

インタビュー:伊藤秋廣(エーアイプロダクション)