【データご提供】東京薬科大学 薬学部 創薬基盤科学教室 降幡 知巳先生、森尾 花恵先生、大木 聖矢様
ヒトの脳は数多くの神経細胞で構成される重要な器官であり、血液脳関門(BBB)によって保護されています。BBBは血液から脳への物質の移動を制限し、有害物質の侵入を防ぎます。しかし、同時に脳内への薬剤の送達を制限してしまうため、中枢神経系疾患の治療薬を開発する上で大きな障害となっています。BBBを通過させて治療薬を脳内に届ける仕組みを開発する必要性があると同時に、BBB透過性を評価するためのin vitro BBBモデルの開発も求められています。従来のトランズウェルを利用した平面培養よりも機能的な三次元培養モデルの開発が近年進められています。
今回は東京薬科大学降幡先生の研究グループが開発した新しいヒトBBBモデルをご紹介します。Prime-Surface®プレート96Vを使用して作製したこの「階層スフェロイド型BBBモデル」を用いて、薬物の脳内移行評価などの研究が行われています。BBBの生理・病態の分子機構の解明にも有用であると期待されています。
BBBモデルの作製
PrimeSurface®プレート96VにBBBを構成する細胞を下記のように播種
PrimeSurface®を使用することでコアにアストロサイトとペリサイト、最外周に脳毛細血管内皮細胞からなる階層スフェロイド型BBBモデルが作製できます。
詳細はこちらでの論文ご参照ください: Generation of a Human Conditionally Immortalized Cell-based Multicellular Spheroidal Blood-Brain Barrier Model for Permeability Evaluation of Macromolecules. Isogai R, Morio H, Okamoto A, Kitamura K, Furihata T. Bio Protoc. 2022;12:e4465.
BBB透過性試験
受容体介在性トランスサイトーシスは、トランスフェリンやインスリンなどの高分子(ペプチドホルモンやタンパク質など)を、血液から脳内へBBBを越えて運ぶ細胞内小胞を介した輸送経路として知られています。本BBBモデルを用いて、脳ドラッグデリバリーシステムとして期待される新規ペプチド(Cy5標識)の脳内透過性試験を行いました。
方法
1. Day5のスフェロイドを回収し、HBSS(+)で洗浄後最終濃度1 µMとなるようにペプチドを培地に添加
2. 37℃で40分間スフェロイドを処理し、PBS (+)で洗浄
3. 4%PFAで固定後スライドガラスに封入して、共焦点顕微鏡で観察
結果
スフェロイド内部がCy5由来の赤蛍光で光ることで、新規ペプチドがBBB透過性を有することを確認しました。
PrimeSurface®を用いることで生体内のBBBに近い構造の多細胞スフェロイドを形成することができる
- ここで用いられておりますデータはすべて当社で実施された測定の一例で、保証値ではありません。またあらゆる条件下での性能を保証するものではありません。